【MTG・パイオニア】実録・ハンマータイム地獄変
「パイオニアでハンマータイム」はすべて詐欺です
「ファイレクシア:完全なる統一」が発売し、身内環境にパイオニア旋風が吹き荒れた。
いい機会なので僕もパイオニアデッキを組んだ。
ONEプレビューから話題になっていた、《耐え忍ぶカー、ケンバ》を採用した「ハンマータイム」だ。
・ハンマータイムについて
多分みんな知ってると思うけど一応解説しておくね。
ハンマータイムはモダンに存在するアーキタイプ。クソ重装備コスト装備《巨像の鎚》を《シガルダの助け》や《純鋼の聖騎士》で強引に装備するコンボをメインとしたビートダウンデッキである。
1ターン目にクリーチャーを出し、2ターン目に《シガルダ》《巨像の鎚》と続けることでいきなりパワー10超えで殴り掛かることができる。
《シガルダ》と《ハンマー》はパイオニアでも使用可能なカードだが、《純鋼の聖騎士》は使用可能範囲外。一般的に、MTGではコンボのキーパーツは2種8枚あるべきとされる。パイオニアでもできなくはないけど、成功率が低いとみなされていた。《シガルダ》だけでは戦場に出た後の《ハンマー》が粗大ゴミと化すのも問題だ。
一応、《毅然たる一撃》《カズールの徴収者》といったカードは存在するが、知る限り話題を聞いたことがなかった。まあ見るからに弱そうだもんな。
そこに颯爽登場したのが上に挙げた《ケンバ》である。戦場の《ハンマー》を回収でき、自分だけでなく他の猫クリーチャーにも持たせられる。
実に気に入った。他の猫もOKっていうのがいいね。余談だが、僕が初めての統率者として検討していた中に《王の摂政、ケンバ》があったので、「ミラディンの傷跡」ブロック発売時は遊んでいなかったがケンバを知っていた。生きてるとは思ってなかったけど。
・実際に組んだデッキ
後述する大会に参加した時のバージョン。マイナーチェンジは繰り返したが、基本骨子は最初から変わっていない。
で、まず、このリストは一般的なものではない。おそらくよく知られているタイプのものは、死亡時にパワー分のダメージを与える《火刃の突撃者》《騒音の悪獣》を採用している。
なぜこれらを採用していないのかというと、半分は趣味である。
もう半分は、このゴブリン型にしても劇的に強くなるわけではないと考えたからである。(この辺は後述)
なお、《離反ダニ、スクレルヴ》を取らずメインのクリーチャーを猫のみにし、相棒に《孤児護り、カヒーラ》を指定した見た目だけ美しいリストも考えたが、すぐに《スクレルヴ》入りに戻した。
・実際どうだったの?
デッキを組んだので僕は身内と対戦を繰り返した。
対戦したデッキは以下の通り。
・イゼットフェニックス
・赤単
・青白コン
・エニグマ
・アブザンパルへリオン
・マルドゥパルヘリオン
・ボロスヒロイック
・青黒オラクル
・青単クロパ
・緑白オーラ
この時点では、ほどほどに勝ったり負けたりといった感じ。対青白コンのみ明確に不利だったり、後述するデッキ構造の問題を感じつつも、まったくゲームにならないとは感じなかった。サイドの《解き放たれた狂戦士》は青白コンにボコボコにされた名残りである。
また余談だが、青白コンにボコボコにされた翌日、僕は原因不明の39度の高熱を出した。コロナでもインフルエンザでもなかった。
その後、身内で連れ立ってパイオニア大会に出る話が持ち上がり、せっかくなので僕も同行することにした。参加者は20人程度で、スイスドロー5回戦(とSE)。
気になる戦績は、
1.黒単ミッド ××
2.グルール機体 ○××
3.グルール機体 ××
4.グルール機体 ××
5.青黒コン ××
こうです。
・「パイオニアでハンマータイム」はすべて詐欺
自慢じゃないが、僕はMTGが下手なほうだと思う。構築の大会とか久々すぎて結構緊張したし、自覚しているプレイミスも結構あった。なので、ちょっと負けが込んだくらいでデッキに責任を押し付けるような無様な真似はしない。
しないが、さすがにこれは使い手の腕だけの問題ではないと思う。根本的な陥穽がある。
ここからは、これまでの対戦で感じたこのデッキの弱みを、可能な限り考察していきたい。
・華麗なるワンショットキルなどない
まず、身内対戦の時点で顕在化していた問題が、「《ハンマー》コンボに大きく偏っているにもかかわらず、成功率が低い」ことである。もちろんこの「成功率が低い」には様々な要因が含まれており、それはこの後切り分けていくが、その前に「そもそもコンボが決まったとして、勝つのか?」という問題が実は横たわっている。
このデッキが最速で《ハンマー》で殴る動きは以下の通り。
ターン1.《聖なる猫》を唱える。
ターン2.《シガルダの助け》《巨像の鎚》を唱え、猫につけて攻撃。
この動きの問題は何か。これが成功しても勝っていないことだ。もちろん、実際には2ターン目についた20点以上のライフ差を見て相手が投了するケースはある。この差をひっくり返すのは難しい。
本当にそうだろうか。
ライフ差が20点つこうと勝てると明確に言えるデッキの代表格が、先に「明確に不利」とした青白コン(というかコントロール全般)である。
また、ビートダウンも環境にいるレベルのものは基本的に非常に高い打点を持ち、スムーズに展開し続ければ30点程度は簡単に撲殺できるスケールを持つ。
実際に起きたケースを例に出そう。グルール機体戦にて3ターン目に《聖なる猫》による11点絆魂パンチを決めたが、返しに登場したのは《アクロス戦争》。
《ハンマー》ごと猫を取られ、殴られてライフ差が帳消しになり、3章でさらにライフゲインをされ、相手のライフは30を超えた。負けた。
《聖なる猫》でなく《火刃の突撃者》なら、と言いたいところだが、やはり状況は好転しないと思われる。ゴブリンたちは白いデッキに当然のように入る《ポータブル・ホール》のような追放除去には全くの無力であり、《アクロス戦争》ならこちらが死ぬ。
黒系の除去に強くなるのは間違いないが、例えばラクドスミッドレンジにも《苦難の影》《絶滅の契機》などが採用されているため、確実とは言えない。
もちろん、《典雅な襲撃者》や《ティムールの激闘》はこのような事態を許さず確実に息の根を止めるために採用されているが……上手くいったのは調整中に数度あったかどうかといったところだ。
・生き残れるとか思うな
上でも少し触れたが、環境に多い除去との相性の悪さも大きい。
上記リストでは、メインのパーマネントカードはほぼ2マナ以下。これは、つまり《ポータブル・ホール》と《致命的な一押し》で全員対処されることを意味する。もちろんそれ以外の確定除去ももちろん効く。
《踏みつけ》などの火力除去は単純にめちゃくちゃデカくなることで回避することもできるが、相手は当然そうなる前に全力で除去してくる。赤系デッキはサイドに《引き裂く流弾》のような対白火力を搭載しているケースも多く、このデッキは結果的にメインクリーチャーが全て白のため、これが文字通り流れ弾的に突き刺さることとなってしまった。ジョンウィック2のアレみたいになってる。
さらに言えば、青白コンは《冥途灯りの行進》《一時的封鎖》なども使用してくる。後者は《摩耗+損耗》でなんとかならないこともないが……。
こちらも《スクレルヴ》《神々の思し召し》《ロランの脱出》で回避を試みているが、結局押し切られるケースが多かった。生きてさえいればライフの支払いだけがコストとなる《スクレルヴ》はよかったが、他の防御呪文は受動的なカードであり、直接的なアドバンテージは取ってくれないということを痛感した。
・アドバンテージが取れない
上ではさもこのデッキだけ余計に除去が飛んでくるように書いたが、(別に噓をついた訳じゃないが)当然ながらそんなことは全てのデッキがそうだ。このデッキが除去に覿面に弱い理由は、もちろん「追加のクリーチャーを供給する能力が低い」からだ。
1枚でアドバンテージをガンガン取るカードが増え、その権化のようなラクドスミッドレンジが門番の如く鎮座するのがこのパイオニアというフォーマットである。
《慈悲無き者、ナヒリ》はなんかとてもデッキと相性が良くいい感じにアドバンテージを取ってくれそうだが、体感としてはおそらくまやかしである。0能力は《ハンマー》や《ケンバ》なども蘇生でき、奇襲とかできて強そうに思えるが、結局のところ現行のリストでは一発ハンマーパンチを仕掛けるのが限界。
・ハンマータイムの本質はコンボじゃないんじゃない?
僕はモダンをちゃんとやっているわけでは全くないのでこれは多分に推測が含まれるが、実際のところモダンハンマータイムにとってハンマーによる必殺コンボはメインではないのではないだろうか。
《墨蛾の生息地》の存在によって本当の意味でのワンショットキルができるというのもあるだろうが、《石鍛冶の神秘家》から《カルドラの完成体》を発射することもできる、というサブプランの存在も大きいように思える。
モダン・ハンマータイムはコンボをちらつかせながら別の攻め手を用意できる点が強いのであって、少なくとも今のパイオニア・ハンマータイムは、コンボの部分だけを再現した半端なものに過ぎない……帰りの電車の中で出た結論がこれである。
・どうする猫ハンマー
完
半分は冗談で、もう少し粘るつもりではある。でも猫要素は多分消えることになる。